「八戒!この食パン貰っていい?」
目が覚めてからずーっと台所をガサガサあさっていたあたしは、そこで見つけた食パン一斤を八戒の目の前に差し出した。
「えぇ構いませんけど・・・」
「ありがとう!」
八戒の言葉を最後まで聞く前にあたしは台所へと戻って行った。
そう、今日は4月5日・・・悟空の誕生日。
実は八戒に言われるまで今日が悟空の誕生日だって分からなかった。
あっちの生活がバタバタしてて、こっちの日付をあまり気にしてなかったんだよね。
わ、忘れてたわけじゃないんだよ!・・・ただちょっと忙しくてど忘れしてただけ。
そんなだから悟空の誕生日にプレゼントしようとしていたパウンドケーキの分量を書いた紙はあっさり現代のテーブルの上に置いてきちゃって、台所で何か作れる物はないかと考えて考えて思いついたのが・・・これだったんだよね。
「・・・正しい作り方なんか知らないんだけどね。」
あたしはデニッシュ生地の食パンを普通より厚めに切った。
「さすがに一斤もあれば悟空のお腹もちょっとはいっぱいに・・・なる・・・かな・・・」
そんな不安を抱えている所に元気な声が聞こえたので、食パンをそのままに居間へ向かった。
「悟空!」
「あ、!」
笑顔で走って来る悟空をギュッと抱きしめると、悟空も同じようにギュッと抱きしめ返してくれる。
何だか最近これがあたしと悟空の挨拶みたいになってるな。
抱きしめていた腕を解いて悟空と一緒に来たであろう三蔵に挨拶をしようと顔を上げたら・・・誰もいなかった。
「あれ?悟空、三蔵は?」
「一緒に来たけど、なんか八戒と外で話してる。」
言われて見れば庭の方から八戒と三蔵の声が聞こえてくる・・・気がする。
じゃぁ今のうちに準備しようかな。
「ねぇ悟空、お腹すいてる?」
「うん!八戒が今日いっぱい俺の好きな物食わせてくれるって言ったから腹減らしてきた♪」
・・・八戒も悟空のお誕生日祝う予定なんだ。
あたしが先にお祝いしちゃってもいいのかな?
そう思った瞬間、庭にいた八戒に名前を呼ばれた。
「〜!」
「あ、はーい!!」
「ちょっと三蔵と一緒に町まで行ってきますから、悟空と一緒にお留守番していてもらっていいですか?」
「はーい。」
「あぁそれと、悟空がお腹を空かせているみたいなので、良かったら何かおやつを食べて待っていて貰っていいですか?」
――― ひょっとしてあたしのしようとしてる事バレてる?
「すぐに帰ります。」
あたしの素朴な疑問に答える前に、庭で聞こえていた2人の声がどんどん遠くなり、その代わり何とも言えない大きな音がすぐ側から聞こえてきた。
「・・・ゴ、ゴメン。」
それは隣にいた悟空のお腹が鳴った音。
悟空がお腹空かせて来たって言うくらいだから、よっぽどお腹空いてるんだよね。
それだったら八戒の美味しい料理の前にちょっとくらいプレゼント代わりのおやつ食べても大丈夫・・・だろう。
「悟空、ちょっと待っててくれる?」
「うん。」
取り敢えず悟空にオレンジジュースを渡して、準備が途中だったお誕生日プレゼント代わりのハニートーストの準備に取り掛かる。
テレビで良く見るのは縁を残して中身を取り出すけど・・・あたしが良く行くお店では普通の食パンじゃなくてデニィッシュ生地の食パンを使うんだよね。
バターを塗ったデニィッシュパンをトースターに入れ、一度軽く焼く。
「〜!何かすっげー美味そうな匂いする!!」
「もうちょっと待ってね〜!」
さすが悟空、嗅覚が鋭いな。くすくす笑いながら軽く焼けたパンにもう一度バターを塗って蜂蜜をたらす。
そしてもう一度トースターに入れている間に冷凍庫からバニラアイスを取り出して準備をする。
「か・・・固っ!」
悟空用、という事で買っていたファミリーサイズのバニラアイスはスプーンを突き刺すだけでもかなりの重労働。
スプーンが折れない程度に一生懸命力を入れて、なんとか三つの固まりを取り出した。
「ふぅ、あとはパンが焼けるのを待つ・・・って、やだっちょっと焦げてる!?」
火に近かった部分が若干美味しそうな色からは遠い色に変化してしまっている・・・簡単に言えば、焦げて真っ黒。
「・・・上手く誤魔化せるかな。」
かりかりと頬をかいてからバニラアイスをどんっと乗っけてその部分を隠し、その上から蜂蜜を糸のように垂らす。
そしてシナモンパウダーをふりかけ、最後に彩りとしてミントの葉をちょんっと乗っけた。
「どうか、どうか悟空が喜んでくれますようにっ!」
背中に隠すようにして台所からゆっくり出て行くと、既にオレンジジュースは空になっていた。
そして当の本人は、と言うとソファーで眠っていたジープをそれはもう真剣な眼差しで見つめていた。
あたしの存在に気付いたのか、それとも背中に隠した食べ物の匂いで気付いたのか分からないけど、悟空が視線をジープからあたしに移した。
「あ、!」
「・・・待たせてゴメンね、悟空。」
――― 今、悟空が手の甲で涎を拭ったのは見なかった事にしよう。
ジープが何事も無く眠りについているのを目で確認してから、目の前の悟空に視線を合わせるべくしゃがみ込む。
「?」
不思議そうに首を傾げる悟空がやっぱり可愛くて自然と頬が緩む。
もっともっと、悟空の笑顔が見てみたい。
そんな想いを込めて、あたしは背中に隠していた物を今日の為にある言葉と一緒に差し出した。
「お誕生日おめでとう!悟空!!」
「・・・え!?」
「八戒の美味しいご馳走には劣るけど、でもでも気持ちだけは思いっきり込めてあるから!」
「え??」
お腹も空いてるはずだから、すぐに受け取って食べてくれると思ったのに、予想に反して悟空は中々あたしが差し出したお皿に手を伸ばしてくれない。
何!?妙な物体をあげちゃったから動き止ってるの?!
それともあまりに強引な展開に実は不愉快な思いしてるとか?!
って言うか、空腹の悟空が手も出せない料理を作ってしまったって事!?
ぐるぐると不安要素が頭の中を回り始めた所に、ようやく悟空の声が耳に届いた。
「あ、あのさ・・・。」
「なっ何?!」
「これ・・・俺、食っていいの?」
「・・・?」
顔を真っ赤にして既に半分以上溶けてしまったアイスに浸ったハニートーストを指差す。
「悟空の為に作ったんだもん。勿論食べていいよ?」
「・・・三蔵達、待たなくても・・・いい、の?」
「???」
悟空の言いたい事がイマイチ分からなくて首を傾げる。
「悟空のお誕生日パーティでは八戒が腕を奮ってくれるでしょう?だからその前に、あたしが悟空にプレゼント渡したかったんだ。」
「が・・・俺に?」
「うん、そうだよ。」
ゆっくりあたしの方に手を伸ばしてきた悟空の手に、お皿を乗せて・・・あたしは笑顔でもう一度祝いの言葉を口にした。
「お誕生日おめでとう、悟空。お祝いの言葉は遅れちゃったけど、プレゼントは一番最初に渡せたかな?」
「・・・うん!ありがとう、っ!俺、すっげー嬉しいっ!!」
まるで花の蕾が勢い良く咲くような感じで戸惑いの表情から笑顔に変わった悟空。
そのまま手を繋いでテーブルに二人で並んで座る。
「、これすっげー美味い!!」
「そう?うわぁ良かった!・・・でもさ、悟空?」
「ん?」
あたしは片手で一生懸命溶けたバニラアイスの海を泳ぐトーストをフォークに突き刺そうと頑張る悟空と繋いでいる手を空いている方の手で指差した。
「手、繋いでて食べにくくない?」
「ん〜ん」
ほおばっている所為で声が出ない悟空は、首を大きく左右に振って、尚且つ繋いでいた手を更にぎゅっと握り締めた。
それから、八戒達が買物から帰ってくるまで・・・悟空があたしの手を離す事はなかった。
終始笑顔で、味わうようにゆっくり食べてくれた悟空の横顔を眺めながら、心の中で何度も何度もおめでとうと呟いたあたしの心、届いたかな?
・・・お誕生日おめでとう、来年もこうして手を繋いでお祝いしたいね。
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二年越しの悟空の誕生日話〜(笑)
最初は気に食わなかったけど、読み直して校正していくうちに・・・可愛いなwと思い始めました(笑)
でもこれでようやく最遊記メンバーのお誕生日話が揃いました♪
何というか肩の力が抜けたというか、ようやく悟空を祝えたというか・・・(笑)
・・・っていうかヤバイヤバイ。
危うく今年の悟空の誕生日をど忘れしてスルーしちゃう所だったよ(汗)
最後になっちゃったけど、悟空、誕生日おめでとーっ!!
※ちょっとしたオマケつき。
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